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UTMF2020年大会に向け、昨年1月にスタートした『マフェトン理論でUTMFへ挑戦!』プロジェクト。新型コロナウイルスの影響を受け、中断していた企画が還ってきます。#5はリモート座談会でのフリートーク。中断期間中のそれぞれのトレーニングを中心に、マフェトントレーニングのアレンジ、UTMF2021に向けての準備について話し合いました。

2月17日にLIVE配信されたUTMF(Ultra Trail Mount Fuji:ウルトラトレイルマウントフジ)2021年大会の開催可否判断と開催方針。緊急事態宣言下ということもあり、開催可否については3月17日へ延期されましたが、その一言一句から実行委員会が開催へ全力で準備していることが伝わってきました。参加を予定している皆さん、開催を信じて準備を続けましょう。

onyourmarkでは2021年大会開催への期待を込め、1月より『マフェトン理論でUTMFへ挑戦!』プロジェクトを再開しました。まだまだ予断を許さない状況ですが、我々もプロジェクト参加者3名*がゴールを気持ちよく駆け抜けることを信じ、最後までサポートしていきたいと思います。
*プロジェクト参加者3名のプロフィールは#1 力強く完走するためにから。

今回は新型コロナウイルス対策の観点から、監修で入っていただいている齋藤通生さんとプロジェクト参加者3名をリモートで繋ぎ、座談会形式で進捗状況を共有する形を取りました。リスタートまでの約10ヶ月間、それぞれどのようなトレーニングをしてきたのか。改めてレースへの抱負も聞いています。

脂質優先体質を手にしてからのマフェトントレーニング

緊急事態宣言下ということもあり、久しぶりのセッションはオンラインで。

onyourmark(以下OYM):皆さん、お久しぶりです。中断に入る前に「プロジェクト再開までの間はマフェトン理論に準じなくてよい」とお伝えしましたが、マフェトントレーニングは続けていましたか?

橋本哲二(以下:はしもっくん):僕は5月までマフェトンとレーンングを継続していましたが、そこで一度区切りをつけました。当時は富士登山競走ハセツネCUPが開催されるとみていたので、その準備としてVO2Maxを強化するのが狙いでした。

年齢的なこともあり、以前は楽に走れていたペースがきつく感じるようになっていたこともあり、もう一度心肺機能を強化してから、マフェトントレーニングにシフトする方が良いと考えて決めました。

山野尚大(以下:山さん):僕は中断期間中もマフェトントレーニングを続けていました。少しずつ1kmあたりの平均ペースが向上していくのが分かり、「このまま続けてどれくらいまでタイムを伸ばせるか、興味が湧いたんです。結果としては飛躍的に向上することはありませんでしたが、エネルギー消費効率が格段に良くなったと感じています。エアロビック心拍数*をキープして走るのであれば、長い距離を楽に走れるようになりました。

*エアロビック心拍数 = Dr.フィリップ・マフェトンが「脂肪燃焼回路を体内に築き上げるのに効果的」と提唱した心拍数の値。「180-年齢」を基本とする。

齋藤さんにお聞きしたいのですが、昨年企画を立ち上げた時はゼロベースでした。マフェトントレーニングは3ヶ月から4ヶ月くらいかけて脂質代謝を高めていくのが狙いだと思うのですが、ここまで1年続けて代謝が改善されたとして、今後どのようなトレーニングをしていくのが効果的でしょうか?

回数にして150回以上、マフェトントレーニングを続けている山さん。過去のSTRAVA(ストラバ)のログと現在を比較すると、1kmあたりのペースが30秒ほど上がったことがわかる。

齋藤通生:マフェトン理論は心拍管理に焦点を当てたトレーニングで、身体の循環機能を向上させることがいちばんの目的です。身体が脂質代謝優先に切り替わっている実感があるのであれば、アレンジを加えるのは良いことです。

一度UTMFの完走タイムを想定し、平均ペースを算出してみてください。時速4kmで40時間、時速5kmで32時間、時速6kmで約27時間、継続して辛くない心拍ゾーンを見いだすことが大切ですが、自分はどれくらいで完走できそうか。その心拍数とペースを基本にして、アレンジするのが良いと思います。

OYM:具体的にトレーニング内容はどのようなものになるのでしょうか? エアロビック心拍数に限らずトレーニングして良いということでしょうか?

齋藤:レースでエアロビック心拍数を守って走りきることはまず不可能ですよね。スタートでは緊張もあり心拍は高まりますし、上り下りのあるパートでは心拍が上下するのは避けられないことです。

マフェトン理論は「180-年齢」が心拍数の目安ですが、フィリップ・マフェトンはある程度トレーニングを積んだ人であれば、設定心拍数から5上げてトレーニングすることを推奨しています。更に言えばマフェトン理論の設定からははみ出ますが、設定心拍数から10上げて、テンポゾーンにかかるくらいのペースで走ったとして、何キロで身体に疲労を感じ始めるか、水分、ナトリウム(塩分)の消費と合わせて把握しておくと、レースの時の引き出しとして活かせると思います。

*テンポゾーン = 最大心拍数(220-年齢)に対する割合を基に5段階に分類される心拍ゾーンの3段目。有酸素性能力向上の目安となるゾーンで、最大心拍数の70~80%となる。ちなみに2段目がエアロビックゾーン。最大心拍数の場合の60〜70%となり、明確な数値が示されるマフェトン理論に比べ幅がある。

トレーニングを継続してきたのであれば「180-年齢+5」の心拍数でのランニングを基本に、ポイント練習として、設定心拍から+10、+15上げたトレーニングを合間に挟んでみてください。

逆にエアロビック心拍数より低い心拍数で走ってどれくらいの距離を走れるのか理解しておくのも良いでしょう。心拍数と距離の相関図を自分なりに作ってみると、完走タイムが具体化してくるはずです。

山さん:12月にITJ(Izu Trail Journey)に参加したのですが、その時に設定心拍+10~15にトライしました。きつい場面もありましたが、心拍数を守って65kmを走りきれたので、今の話はとてもよくわかります。これからトレーニングでも取り入れてみます。

齋藤:もうひとつ、マフェトントレーニングのアレンジとしては、アップダウンのあるコースを取り入れてみてください。下りの心拍数が必ず下がりますから、心拍数を落とさないように走ると必然的にインターバルトレーニングのような強度で走ることになります。上りはその逆で心拍数をいかに抑えて走るかがポイント。心拍数を上げ過ぎないくせを身体に覚え込ませるのが狙いです。

心拍の上下動を少なくすることは疲労軽減につながります。下りをペースを上げて走ると足へのインパクトが大きいので、レースでは避けるべきですが、トレーニングでは限りなく一定になるようにトライしてください。

マフェトントレーニングの前に心肺機能を高めておく

小倉遥(以下:はるちゃん)はるちゃん:私は夏までマフェトントレーニングを続けていましたが、暑くなり始めてからは心拍数が上がり気味で、ペースを上げることができず、暑さが落ち着くまでは上りの脚力強化期間と捉えて山へ行く機会を増やしていました。

涼しくなってからはマフェトントレーニングと並行して、11月からインターバルトレーニングを始めました。弱点であるスピードをつけることが狙いでしたが、去年最後にMAFテストをしたときは1km6分15秒くらいだったのが、5分30秒くらいまで上げることができました。これからはエアロビックゾーンの振り幅で坂でのインターバルトレーニングを組み込んでいこうと考えています。

中断期間中、スピードトレーニングでVO2Maxを強化したはるちゃん。最近は坂道を使ったインターバルを取り入れる。

マフェトン理論の効果は山で現れる

OYM:山さんはマフェトントレーニングを継続してきたとのことですが、現在エアロビック心拍数で1kmをどれくらいで走れるようになりましたか?

山さん:平均すると5分を切るくらいです。体調がいいと4分50くらいまであげることができますが、そこまでペースを上げると若干設定心拍をはみ出ることが多くなります。

OYM:エネルギー消費効率が良くなったと仰いましたが、どういった時に感じましたか。

山さん:ロードのトレーニングばかり続けていたわけではなく、月に1、2回はトレイルランへ出かけていました。山でも心拍数を守ってトレーニングを続けていたのですが、長い時間、距離を行動しても疲れがドッと来るようなことがない事にふと気づいたんです。

ロードである程度体質が変わっている感覚は持てていましたが、実際に山で効果を実感したことで自信が確信に変わりました。以来「日々のランニングはマフェトン理論、山に行くときはより長く」が僕の土台です。怪我もないですし、楽しく続けることができている要因ですね。

昨年夏に行った金峰山から富士山を眺める山さん。週末のトレーニングではトレイルで8時間以上走ることも。

低酸素環境での低心拍トレーニングの効果

はるちゃん:低酸素環境でエアロビック心拍数をキープして走った場合効果は得られるのか、気になって昨年の12月頃から低酸素トレーニングを取り入れているのですが、齋藤さんはどうお考えですか?

齋藤:8000m級の山へ行くような遠征隊は低酸素環境で2泊、3泊と時間をかけて身体を順応させ、血液中にヘモグロビンを増やしてからアタックしますが、何日前から順応させるのが良いのか、明確なエビデンスはまだありません。低酸素施設では1回当たり1時間程度ですし、レースに向けてという観点で言えば良いか悪いかはっきりしたことは言えないですね。

ただ、酸素濃度の低いところで運動すると、脂肪燃焼効率は落ちることは証明されています。酸素は運動する上で最も大切なものです。マフェトントレーニングのメリットは酸素供給能力を高め、血液量を多くすることなので、酸素をたくさん取り込むトレーニングをする方が好ましいでしょう。

はるちゃん:なるほど。ありがとうございます。はしもっくんはVO2Maxをあげるトレーニングをされていたとのことですが、具体的にどんなトレーニングをされていましたか?

はしもっくん:インターバルトレーニングが中心でしたが、結局富士登山競走やハセツネCUPの他、出走を予定していたレースは全て中止になったので、継続してインターバルトレーニングを取り入れていたわけではないです。どちらかというと自由に気のおもむくままに走っていました。週末は毎週山へ行っていましたが、心拍数を気にして走ることもしなかったです。

中断期間中は自宅近辺の裏山を中心に、高い山でのトレーニングも織り交ぜていたはしもっくん。本番まで脂質優先体質へどれだけ変化させれるか注目。

起伏のある山で行うマフェトントレーニング

はるちゃん:やはり山へ行かないでいると走り方もわからなくなるし、身体がトレイルを求め始めますよね。マフェトン理論に身体が順応しているならトレイルでのマフェトントレーニングを増やすのは問題ないのでしょうか?

齋藤:3人とも昨年から体質は変化しているはずですし、今は心拍管理への意識が根付いていますから、トレーニングする場所はロードでもトレイルでも構いません。ただ、何度もお伝えしている通り、マフェトン理論は心拍管理に焦点を当てたトレーニングです。急斜面の登りでペースを上げて心拍数が急上昇することがないように、また、アップダウンを繰り返すようなパートでも心拍数が上下にブレ過ぎないように管理してください。

信越五岳で結果を残した矢崎智也は、レースの約1ヶ月前から山中心に切り替えました。山の感覚は山でしか得られませんから、レースが近くなるにつれて、山でのトレーニングボリュームを増やすのは良いことです。脚をひねったり、怪我だけしないように注意しつつ、少しずつトレイルでのトレーニングタイムを増やしていくと良いでしょう。

体質を変えるための「食」

OYM:今回のUTMFはサポート禁止、応援も自粛、エイドも例年に比べ簡素化されます。厳しいレギュレーションかと思いますが、皆さん不安はありませんか?

はしもっくん:昨年3月の中断までに、脂質代謝優先に切り替えることができなかったと感じています。6月頃に一度糖質制限を試したのですが、身体に合わず、続けられませんでした。甘いものが好きでつい食べてしまうことがあり、糖代謝優先の体質から抜け出せてないのだろうと。食事の見直しで気をつけるべきことを聞いておきたいです。

齋藤:甘いものでも急激にGI値*が高くなるようなものでなければ、疲労を素早く抜くためにも摂るべきです。脂質代謝優先になっているとしても、糖がゼロの状態では身体が働こうとしませんから、トレーニング中も忘れずに摂取するようにしてください。

*GI値 = Glycemic Indexの略で、食後血糖値の上昇を示す指標となる。食品に含まれる糖質の吸収度合いを示し、摂取2時間までの血液中の糖濃度を計った数値が70以上の食品が高GI食品 56~69の間の食品が中GI食品 55以下の食品が低GI食品と定義されている。

ポイントは摂るタイミングです。普段の生活であれば夜寝る前や間食に糖質過多の食品は避けるべきですし、マフェトントレーニングは脂質を燃やしやすくするのが狙いですから、トレーニング前に過度に糖質を摂るのもよくありません。「いつ摂るべきか」はよく考えて、かつGI値が低い食品から選ぶと体質改善につながっていくはずです。

山さん:仕事が忙しい時やストレスが溜まると甘いものを食べたくなるのでよくわかります。僕は丼モノや麺類のような炭水化物の割合が多い食事を控えるように変えました。好きなものを食べていますが、基本は定食で一汁三菜を守っています。糖質だけになる食事を控え、タンパク質の割合を多くするのも意識していますね。

OYM:山さんとはるちゃんは食事や補給で気になることはありませんか?

はるちゃん:特にはないです。私は食べるのが面倒くさく感じてレース後半で食べなくなることが多いので、食べずに進まないように気をつけなくてはと思っているくらいです。

山さん:僕は以前よくお腹を下していたのですが、齋藤さんから脱水の可能性を指摘されて、水分とナトリウムの補給バランスに気を使うようにして改善できました。レースを完走できるかという意味での不安は尽きませんが、細かなディテールの部分は気にしてもしょうがないかなと思っています。

UTMF2021の目標

OYM:最後に、改めて目標を教えてください。

山さん:企画に参加した当初は「楽しく走り切りたい」と答えたかと思うのですが、それは最低限の目標に切り替えました。まだ順位など明確な目標は決めていませんが、1年間マフェトントレーニングを続けて覚えたこと、身につけたことをレースで出し切りたいですね。自分がどれくらいの順位を目指せるのか、楽しみですし、できる限りストレッチしたチャレンジをしたいと思っています。

はるちゃん:私は正直なところまだ気持ちが乗っていませんが、女子のシード権(20位以内)を狙おうと思っています。今日皆さんと話せてエンジンをかけることができたので、ここからさらに気持ちもコンディションも高めていきたいですね。

はしもっくん:当初から変わらず、100位以内、シード権獲得が目標です。結果にこだわって走りたいと思います。齋藤さん、どうすれば良い結果を手にできますか?

齋藤:今回は家族や友人によるサポートが禁止、その代わりドロップバッグ*を受け取るエイドが2ヶ所と、例年とは違った厳しいレギュレーションです。レース前の準備が順位に大きく作用するでしょう。準備というのはトレーニングのことではなく、レースのシミュレーションの話です。「いかに次のエイドまで自分を運ぶか」、マネジメント力が例年以上に求められます。

*ドロップバッグ = スタート前に預けられる荷物のこと。途中にある決められたエイドで受け取ることができる。例年は1カ所。

補給や着替え、ストレッチなどのコンディショニングなど、各エイドでするべきことを徹底的に洗い出して簡潔にまとめておくことが大事です。それから、ドロップバックに忍ばせておくギアや補給食のバリエーションも考えておく必要があるでしょう。

「ドロップバックに入っているもの=サポート」です。エイドで休む時間をストレスなくスムーズに行える人が先へ先へと進んでいけると思います。

タイムテーブル通りか、少し遅れるのか、それとも大きく遅れるのか、予想通過時間のシミュレーションもいくつかパターンを用意しておくと良いでしょう。皆さんトレーニングはしっかりこなせているようですから、一度じっくり「走る」以外の部分に目を向けてみてください。

<監修者プロフィール>
齋藤通生
(有)ネオディレクション代表。ベスパエリートアスリートサービスとして活躍する栄養補助のエキスパート。山本健一、望月将悟、上宮逸子、高村貴子などのトレイルランナーを中心に、エンデュランス系レースで活躍する多くのアスリートをサポートしている。レース前、レース中、レース後の食事と補給、また、日常の食生活からコンディショニングのプランニングに携わる。